大判例

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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)2041号 判決

控訴人

的場髙吉

控訴人

的場紀美子

右両名訴訟代理人弁護士

今中利昭

村林隆一

吉村洋

浦田和栄

釜田佳孝

松本司

谷口達吉

村上和史

被控訴人

京都府

右代表者知事

荒巻禎一

右訴訟代理人弁護士

小林昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立て

(控訴人ら)

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人ら各自に対し、金二六三三万七三一一円及びこれに対する昭和五八年七月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  仮執行の宣言

(被控訴人)

主文と同旨

第二  主張

次のとおり付加、訂正するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決五枚目表二行目の「洛北高校」の次に「校長及び同校」を、同三行目の「上野教諭には」の次に「平素から山岳部員に対して危険を伴う登山に必要な体力、知識を得させるよう指導するとともに、」を同六行目の「ついても」の次に「、その出発日、日程等を確認、指導し、基本的注意事項を徹底させるなど、」を同八行目の「しかるに、」の次に「右校長及び」を、同行の「上野教諭は、」の次に「右義務を尽くさず、」を、それぞれ加える。

二  同五枚目裏六行目の「あるから、」の次に「学校長及び」を加え、同九行目の「許可すべきでなかつた」を「、遅くとも当初の出発予定日であつた昭和五八年七月二二日の時点において中止させるべきであつた」に改め、同末行の「現地」の前に「本件山行の出発日を確認するとともに、」を加える。

三  同六枚目表四行目の「許可に際し、」の次に「登山の経験に富む者を同行させるとか、」を、同七行目の「指導」の次に「し、少くとも実行する場合には各参加者が遵守すべき注意事項について充分な指導、助言を」、同一〇行目の「公務員である」の次に「学校長及び」を、それぞれ加える。

四  同六枚目裏八行目の「上野教諭」の前に「学校長及び」を加え、同一〇行目の「5」を「4」に改める。

五  同七枚目裏一〇行目の「中で、」の次に「学校長及び」を加える。

六  同九枚目裏一行目の「教諭」の前に「学校長や」を加える。

七  同一〇枚目表八行目の「あるから、」の次と同裏一行目の「教諭」の前に、いずれも「学校長及び」を加える。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほか原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目表一〇行目の「証人」の前に「原審」を、同裏七行目末尾に続けて「当時亡啓髙に健康上格別の異常はなかつた。」を、それぞれ加える。

2  同一四枚目表一〇行目の「芦田は、」の次に「午後五時四五分頃」を加える。

3  同一六枚目裏二行目の「第三号証に、」の次に「原、当審証人上野隆男、当審証人吉山勝平、同大槻一之、原審」を加え、同行の「同上野隆男、」を削除する。

4  同一七枚目表五行目の「芦田」の次に「は、同山岳部が過去に二回白戸川に行つた際に作成された記録を参考にし、登山に関する図書の記載を調べ、関係官庁に必要な事項を問い合わせるなどしたうえ、同人」を、同六行目の「四泊」の次に「(山中におけるもの、以下同じ)」を、同行の「作成され、」の次に「この原案は直ちに山岳部員全員や同部OBに配られたうえ、」を、それぞれ加え、同一〇行目の「OBから」を「OBの大槻一之から、過去の同山行は三泊で完了できており、」に改め、同裏五行目の「事実」の次に「及び前記の争いない事実のように洛北高校山岳部が同校の課外教育活動の一環として設置され、顧問教論が定められていたこと」を、同一〇行目の「証人」の前に「原審」を、それぞれ加える。

5  同一八枚目表三行目の「進んで」の次に「洛北高校校長及び」を、同六行目の「とることなく」の次に「、その一員である亡啓髙の疲労が著しい状態であるのに、」を、それぞれ加え、同九行目の「もつとも」から同一九枚目裏三行目末尾までを以下のとおり改める。

「ところで、控訴人らは、上野教諭らが山岳部員に対して山行に必要な体力、知識を得させるための指導を怠つた旨主張しているが、前掲証人上野、同芦田及び同黒川の各証言によれば、亡啓髙が入部した昭和五八年五月から本件山行までに一六回にわたり山岳部の課外活動として登山が実施され、体力向上と基礎知識の習得が計られており、内三回には同部顧問の上野教諭も参加していること、亡啓髙もその内五回に参加しており、その中に右教諭が参加したことはなかつたものの、いずれの時もOBや上級生が参加していて、同人らから指導を受けていたこと、及び山岳部では毎週一回はミーテイングが開かれ、部員や時には参加した顧問から登山に必要な知識や技術についての話などがなされていたことが認められるのであり、部員が高校生であり、同校山岳部が前記のように同部OBと緊密な関係があつてその指導を受けうる体制にあつたことや登山の知識、技術は現実の山行により習得して行く面が多いことなどを考慮すると、学校長及び上野教諭において右認定のような指導以外に特に具体的な指導を行つていないとしても、この点をとらえて指導監督義務を怠つたものと評価するのは相当ではない。

また、控訴人らは、本件山行プランを許可し、亡啓髙らの出発を容認したことが過失に当る旨主張するところ、確かに前記認定のように当初の出発予定日である昭和五八年七月二二日ないし現に出発した同月二四日においても、只見地方には梅雨前線が停滞していたから、川の遡行ないし渡渉を含む本件山行を中止させるのが一般的には安全と云えなくはないし、さらに前記認定のように三泊行程への計画の変更及び実際の出発日も上野教諭には報告されなかつたため、同教諭はこれらを確認していなかつたのであり、前記の気象状況と本件山行の内容から考えると、右確認をしていないことはやや配慮を欠いたものとはいえなくはない。しかし、本件山行のプランは、計画変更後のものも含めて、前記認定のように山岳部員や過去に本件山行を経験したOBらによつて検討を経たものであり、その行程を含めた内容自体に特に不相当な点があるものとは解されない。ただ、前記の気象状況下で右計画を実行する場合には、現地の川の増水状況等により、計画の中止を含めた具体的に適切な行動を採る必要があるが、本件山行にはリーダーとして当時三年生の芦田、サブリーダーとして当時二年生の安岡が加わつており、成立に争いのない甲第一六号証の一ないし四及び前掲証人芦田の証言によれば、芦田は、昭和五六年四月に山岳部に入部以来本件山行までの間に約三八回にわたり同部の活動としての山行(その三分の一程度は泊を伴つている)に参加しており、うち一三回はリーダーとして、うち七回はサブリーダーとなつていたこと、安岡は昭和五七年五月に山岳部に入部以来本件山行までの間に約一三回にわたり同様の山行に参加しており、うち四回はサブリーダーとなつていたことが認められ、いずれも本件山行当時には相当な登山経験、知識を有していたものと認められ、ことに芦田は右の登山経歴や前記の証言内容からみて登山経験に富む者と解しても不当とはいえない。従つて、右の両名を含めた本件山行パーティが、梅雨明けの近い前記の時期において、現地の状況により行動中止を含めた適切な措置を採ることを期待しても不相当と云えない事情にあつたものというべきであるから、前記の出発時点までに上野教諭らが本件山行プランの計画自体ないしは右出発を阻止しなかつたことが右教諭及び学校長の過失と解することはできない。

さらに、控訴人らは、本件山行プランを許可する場合、登山経験に富む者の同行をさせなかつたこと及び具体的事項について指導、助言をしなかつたことを過失と主張している。しかし、本件山行の日程、場所、行動内容からみると、前記の相当な登山経験を有する芦田及び安岡以外に特に登山経験に富む者の同行を上野教諭らが命じなかつたことを過失と解するのは相当ではない。また、前掲証人上野の証言によれば、昭和五八年七月一六日に開催された本件山行プランを検討するプラン会には、上野教諭は所用があつて欠席し、また前記の本件山行の出発日も知らなかつたため、その出発以前に控訴人ら指摘のような本件山行についての具体的な指導、助言をしていなかつたことが認められるところ、前記のような気象等の条件下で行われる本件山行については、学校長ないし顧問が指導、助言をより濃やかに行う方が一般的には望ましいとはいえるとしても、本来登山については現地に臨んでその場の状況に応じて臨機応変に対処すべき場合が多く、事前に各種の場面を予想して適切な指導、助言をすることは、特に登山について専問的な知識、経験を有することを認めるに足りる証拠のない右両名に期待するのは酷である事情や前記のように本件山行の現地の状況を含めて登山全般についてより経験、知識があることがうかがえるOBが加わつて山岳部員が自主的にプランや行動等について事前に検討できる体制にあり、現に本件について検討会を開き配慮すべき点についてのOB等からの指導もなされていた以上、前記の学校長らの指導、助言がなかつたことを特に過失とみるのは相当でない。

6  同一九枚目裏五行目の「上野教諭」の前に「学校長及び」を加える。

二そうすると、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官大石貢二 裁判官松山恒昭)

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